第1章 第3期健康横浜21が目指す健康づくり 1 策定の趣旨  横浜市民の最も大きな健康課題の一つである生活習慣病の予防を中心とした、横浜市における総合的な健康づくりの指針として、「第3期健康横浜21~横浜市健康増進計画・歯科口腔保健推進計画・食育推進計画~」(以下「第3期計画」という。)を策定します。  計画の推進にあたっては、様々な関係機関・団体と情報共有し、協働で取組を進めていきます。 2 計画期間  国が定める「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」に基づいて推進する「二十一世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」を踏まえ、令和6年度(2024年度)から令和17 年度(2035年度)の12年間を計画期間とします。 3 第3期計画の特徴 (1)これまでの計画  横浜市では、健康増進法に基づく市町村健康増進計画として、平成13年(2001年)9月に「第1期健康横浜21」を策定しました。取組テーマを「生活習慣病予防の推進」と定め「食習慣の改善」「身体活動・運動の定着」「禁煙・分煙の推進」「メタボリックシンドローム対策の推進」を重点取組分野として、平成24年度(2012年度)まで取組を進めてきました。  平成25年度(2013年度)からは「第2期健康横浜21」(以下「第2期計画」という。)を推進してきました。基本目標として「健康寿命」(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を延ばすことを掲げ、取組テーマを「生活習慣の改善」と「生活習慣病の重症化予防」と定め、健康増進の基本である「食生活」「歯・口腔」「喫煙・飲酒」「運動」「休養・こころ」の5つの分野から生活習慣の改善にアプローチするとともに、がん検診、特定健診の普及を進めてきました。 (2)第3期計画の特徴  令和4年(2022年)6月にとりまとめた第2期計画の最終評価では、基本目標である健康寿命の延伸を達成することができ、行動目標の約5割の指標が「目標に近づいた」又は「目標値に達した」となりました。今後の課題としては、健康寿命の延伸に向けた市民の健康課題の把握、女性の健康寿命の延びの鈍化への対応、健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくり、健康格差の縮小、次の世代に進んだ際に予測される健康課題を未然に防ぐといった視点の必要性が示されました。  また、健康寿命の延伸には、市民、歯科保健医療関係者、食育関連団体など様々な領域の関係者が方向性を共有し、同一の目標に向かって、歯科口腔保健の施策や食環境づくりを進める食育の取組を一体的に進めていく必要性が確認されました。  これらの課題を踏まえて第3期計画には、健康に関心が薄い人や健康づくりに取り組めない状況にある人にも重点を置いた取組や、個人の生活習慣の改善だけにアプローチするのではない、環境づくりの取組も明確に位置付けています。さらに、健康寿命の延伸への寄与要因を多角的に分析し、予防効果が表れやすい健康課題を選定するとともに、データを重視した政策立案を進めるためEBPM(Evidence-based Policy Making:エビデンス(根拠)に基づく政策形成)の考え方を踏まえて、目指す「成果」と実施する「取組」の関係を体系化し、評価方法も明確化した計画としています。  そして、第3期計画を総合的な健康づくりの指針とするために、健康増進法に基づく「市町村健康増進計画」を軸に、関連する分野の計画として、横浜市歯科口腔保健の推進に関する条例に基づく「歯科口腔保健推進計画」及び食育基本法に基づく「食育推進計画」の3つの計画を一体的に策定します。   4 基本理念、基本目標、目指す成果  基本理念「共に取り組む生涯を通じた健康づくり」  乳幼児期から高齢期まで継続した生活習慣の改善、生活習慣病の発症予防や重症化予防、健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくりに、市民、関係機関・団体、行政が共に取り組むことにより、誰もが健やかな生活を送ることができる都市を目指します。 基本目標「健康寿命の延伸」  健康上の問題で日常生活を制限されることなく生活できる期間である「健康寿命」を延ばします。  直近値となる令和元年(2019年)の健康寿命は、男性72.60年、女性75.01年、この年の平均寿命は、男性82.03年、女性87.79年となっており、平成22年(2010年)からの9年間で、健康寿命も平均寿命も着実に延伸しました(横浜市が厚生労働省研究班「健康寿命算定プログラム」を用いて算出)。  その一方で、平均寿命と健康寿命には、男性9.43年、女性12.78年の差があります。この差の拡大を防ぎながら、健康寿命を延ばしていくことを目指します。  目指す成果~「基本目標(最終成果)」「中間成果」「直接成果」~  計画に位置付けられた各種取組によってもたらされると仮定した変化を、予め設定した指標により測定します。  取組による直接的な効果と考えられる、「生活習慣の改善・意識や行動の変化」「環境の改善」に関する指標を「直接成果」に設定して、その改善を図ります。  複数の直接成果によってもたらされ、いずれは最終成果につながるといった考え方により、直接成果と最終成果の間にある有病割合や死亡率等の指標の改善を「主要な健康課題の改善」として「中間成果」に設定します。直接成果、中間成果の目標を設定し、基本目標(最終成果)の達成を目指します(評価方法の詳細は第8章「計画の評価」に記載)。 第3期健康横浜21 体系図  第3期健康横浜21 計画期間:令和6年度(2024)~令和17年度(2035)12年間  基本理念 共に取り組む生涯を通じた健康づくり   基本目標(最終成果) 健康寿命の延伸   中間成果 主要な健康課題の改善   直接成果 生活習慣の改善・意識や行動の変化、環境の改善   取組領域① 生活習慣の改善に向けた取組   取組テーマ① 栄養・食生活、歯・口腔、運動、喫煙、休養・こころ、飲酒、暮らしの備え   取組領域② 生活習慣病の発症予防や重症化予防の取組   取組テーマ② 健康診査、がん検診、歯科健診、糖尿病等の疾患   取組領域③ 健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくり   取組テーマ③ 食環境づくり、給食施設の栄養管理、受動喫煙防止対策、職場における健康づくり   取組を推進する10の視点 ①将来を見据えた健康づくり、②性差を踏まえたヘルスリテラシー支援、③ナッジやインセンティブの活用、④環境の創出と利活用、⑤つながりで進める健康づくり、⑥誰も取り残さない健康支援、⑦デジタル技術の有効活用、⑧平時からの健康づくり、⑨産学官連携・共創、⑩前計画からの継続課題 5 主要な健康課題  横浜市民の健康に関するデータ分析の結果、健康寿命の延伸への寄与が大きい、全国データと比較して改善の余地がある、予防効果が表れやすいなど、次の10項目を「主要な健康課題」として選定し、健康寿命の延伸に向けた中間成果の指標として、その改善を目指します。  ①生活習慣病(心血管疾患、がん、糖尿病、慢性の呼吸器系疾患)による早世の減少、②男性の肥満や脂質異常症の改善、③女性の乳がんの死亡率の減少、④糖尿病の重症化の予防、⑤喫煙・受動喫煙の減少、⑥歯周炎の予防と改善、⑦腰痛症の予防と改善、⑧骨折・転倒により介護が必要な状態となることの減少、⑨高齢期の不慮の事故による死亡率の減少、⑩成人期・壮年期のメンタルヘルスの向上の10項目です。  健康に関するデータ分析の結果、第3期計画で新たに明確化したものは、⑦腰痛症の予防と改善、⑨高齢期の不慮の事故による死亡率の減少、⑩成人期・壮年期のメンタルヘルスの向上です。⑦については健康寿命への影響が大きいこと、⑨については冬場の不慮の溺死及び溺水が全国と比べて多いこと、⑩については他都市と比較して睡眠時間が短い成人期男性が多いことや育児や子どもの教育で悩む成人期女性が多いことなどを根拠としています。 健康寿命の延伸に向けた主要な健康課題の改善  ①生活習慣病による早世の減少  ②男性の肥満や脂質異常症の改善  ③女性の乳がんの死亡率の減少  ④糖尿病の重症化の予防  ⑤喫煙・受動喫煙の減少  ⑥歯周炎の予防と改善  ⑦腰痛症の予防と改善  ⑧骨折・転倒により介護が必要な状態となることの減少  ⑨高齢期の不慮の事故による死亡率の減少  ⑩成人期・壮年期のメンタルヘルスの向上 6 取組領域と取組テーマ  健康寿命の延伸に向けた取組を推進するにあたっては、「取組領域」として、個人の行動に関わる「生活習慣の改善に向けた取組」、疾患リスクの早期発見や症状の進行予防に関わる「生活習慣病の発症予防や重症化予防の取組」、社会環境の整備に関わる「健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくり」を設定します。  「生活習慣の改善に向けた取組」においては、「取組テーマ」に「栄養・食生活」「歯・口腔」「喫煙」「飲酒」「運動」「休養・こころ」「暮らしの備え」を位置づけます。  「生活習慣病の発症予防や重症化予防の取組」においては、「健康診査」「がん検診」「歯科健診」「糖尿病等の疾患」を位置づけます。  「健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくり」においては、「食環境づくり」「給食施設の栄養管理」「受動喫煙防止対策」「職場における健康づくり」を位置づけます。  取組テーマごとに現状・課題を整理し、取組内容を検討したうえで、取組領域間及び取組テーマ間の横断的な取組も行っていきます。 7 ライフステージの設定  第3期計画におけるライフステージ(乳幼児期、成人期、高齢期等の人の生涯における各段階)は、第2期計画の考え方を継承し、生活習慣に大きく影響する就学・就業の有無等を考慮した、3つのライフステージを設定します。  ○育ち・学びの世代(乳幼児期~青年期)  ○働き・子育て世代(成人・壮年期)  ○稔りの世代(高齢期)  加えて、取り巻く環境、その年齢を対象に行われる健診・検診を踏まえて、取組の対象とする年齢のめやすを示します。 ライフステージ  育ち・学びの世代(乳幼児期~青年期)  働き・子育て世代(成人・壮年期)  稔りの世代(高齢期) 年齢のめやす  乳幼児期(0~6歳)  学齢期(7~15歳)  青年期(16~22歳)  成人期(20~39歳)  壮年期(40~64歳)  高齢前期(65~74歳)  高齢後期(75歳~) 8 取組を推進する10の視点  取組テーマの下に位置付けた取組を行政等が推進する際に、その効果を高めるために意識すべきことを「取組を推進する10の視点」として掲げます。ライフコースアプローチ(※1)の重要性を踏まえるとともに、健康に関心がある人だけに届きやすい取組に偏らず、健康格差の拡大を防ぎ、予防効果を高め、時代に即したものとするためのものです。  ①将来を見据えた健康づくり、②性差を踏まえたヘルスリテラシー(※2)支援、③ナッジやインセンティブの活用、④環境の創出と利活用、⑤つながりで進める健康づくり、⑥誰も取り残さない健康支援、⑦デジタル技術の有効活用、⑧平時からの健康づくり、⑨産学官連携・共創、⑩前計画からの継続課題の10項目とします。 取組を推進する10の視点  ①将来を見据えた健康づくり:ライフコースアプローチ(※1)による将来に向けた予防  ②性差を踏まえたヘルスリテラシー支援:性別によって異なる健康課題を踏まえたヘルスリテラシー(※2)向上支援  ③ナッジ(※3)やインセンティブ(※4)の活用:楽しみや喜びを感じることから健康への関心につなげる仕掛けづくり  ④環境の創出と利活用:健康に好影響をもたらす社会的環境の創出と物理的環境の利活用  ⑤つながりで進める健康づくり:人と人とのつながりを通じた身近で気軽な健康づくり  ⑥誰も取り残さない健康支援:様々な状況にある市民の健康づくりへの支援  ⑦デジタル技術の有効活用:デジタル技術を有効活用した便利で効率的なサポート  ⑧平時からの健康づくり:自然災害や感染症の蔓延等の発生に備えて平時から行う健康づくり  ⑨産学官連携・共創:民間事業者・大学等の力を活用した取組の推進と健康づくりの活性化  ⑩前計画からの継続課題:第2期計画から引き継ぐ課題への対応   ※1)ライフコースアプローチ:胎児期から高齢期に至るまでの人の生涯を経時的に捉えた健康づくりのこと。幼少期からの生活習慣や健康状態は、成長してからの健康状態にも大きな影響を与え、高齢期に至るまで健康を保持するには、高齢者の健康を支えるだけでなく、若い世代からの取組が重要という考え方によるもの。   ※2)ヘルスリテラシー:健康に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のこと   ※3)ナッジ:「ナッジ」とは「ひじで軽く突く」という意味。行動経済学上、対象者に選択の余地を残しながらも、より良い方向に誘導する方法。   ※4)インセンティブ:目標の達成度等の取組の成果等に応じた配分を行うことで、意欲を引き出すための仕組み。   9 計画の位置付け (1)市町村健康増進計画、歯科口腔保健推進計画及び食育推進計画の関係  第3期計画は、「市町村健康増進計画」「歯科口腔保健推進計画」「食育推進計画」の3つの計画を一体的に策定したものです。  歯科口腔保健推進計画は、定期的な歯のチェックや歯周病予防等の歯科口腔保健を推進し、市民の生涯にわたる健康づくりに寄与することを目的としています。  また、食育推進計画は、「『食』を通して健康と豊かな人間性を育み、活力ある横浜を創る」を基本理念とし、健康増進の視点及び社会・環境・食文化・食の安全の視点から、基本目標や推進テーマを設定しています。  歯科口腔保健推進計画及び食育推進計画における、生活習慣の改善、生活習慣病の発症予防や重症化予防、健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくりに該当する部分を、市町村健康増進計画に位置づけます。  これらの3つの計画により、「健康寿命の延伸」に取り組みます。  第3期健康横浜21が全体として目指すことは、健康寿命の延伸。  その中における市町村健康増進計画は、生活習慣の改善、生活習慣病の発症予防や重症化予防、健康に望ましい行動を取りやすくする環境づくりに関すること。  歯科口腔保健推進計画は、むし歯・歯周病予防、オーラルフレイル予防、定期的に歯のチェックに関すること。  食育推進計画は、健康増進の視点で、栄養バランス、食環境づくり、おいしく食べるに関すること。社会・環境・食文化・食の安全の視点で、地産地消、食文化、食の安全、環境配慮に関すること。 (2)国民健康づくり運動プランとの関係  「二十一世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」においても、健康寿命の延伸は実現されるべき最終的な目標に設定されており、第3期計画は国が設定したその他の目標も勘案した内容となっています。  全体として、健康寿命の延伸・健康格差の縮小を目指す。  そのために、個人の行動と健康状態の改善が必要であり、生活習慣の改善(リスクファクターの低減)、生活習慣病(NCDs)の発症予防、生活習慣病(NCDs)の重症化予防、生活機能の維持・向上に取り組む。  また、その基盤として、社会環境の質の向上も必要であり、自然に健康になれる環境づくり、社会とのつながり、こころの健康の維持及び向上、誰もがアクセスできる健康増進のための基盤の整備に取り組む。  ライフコースアプローチを踏まえた健康づくりに取り組むことが根底になる。 (3)横浜市中期計画との関係  横浜市では、2040年頃の横浜のありたい姿として、共にめざす都市像を描き、その実現に向けた基本戦略を掲げ、9つの戦略と4年間に重点的に取組む38の政策をとりまめとめた「横浜市中期計画2022~2025」を策定しています。  「横浜市中期計画2022~2025」では、基本戦略に「子育てしたいまち 次世代をともに育むまち ヨコハマ」が掲げられ、9つの戦略の一つである「誰もがいきいきと生涯活躍できるまちづくり」を目指す政策として「市民の健康づくりと安心確保」を位置付けています。  第3期計画の取組は、「健康寿命の延伸」を政策指標とする「市民の健康づくりと安心確保」の主な施策として推進していきます。 (4)横浜市の他の計画等との関係  第3期計画は、ライフステージ別の健康に関わりのある計画(横浜市子ども・子育て支援事業計画、横浜市教育振興基本計画、横浜市国民健康保険保健事業実施計画(データヘルス計画)・横浜市国民健康保険特定健康診査等実施計画、横浜市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画・認知症施策推進計画等)や、地域、保健、医療、福祉に関する計画(横浜市地域福祉保健計画、よこはま保健医療プラン、横浜市障害者プラン、横浜市自殺対策計画、横浜市依存症対策地域支援計画等)と調和の取れたものとします。  また、これらの計画には位置付けられていないものの、第3期計画と親和性の高い取組を行っている部署との連携も図りながら取組を進めていきます。 (5)SDGs実現の視点  本市は、国から選定を受けた「SDGs未来都市」として、あらゆる施策においてSDGsを意識して取り組み、環境・経済・社会的課題の統合的解決を図ることで、新たな価値やにぎわいを創出し続ける持続可能な都市を目指しています。  第3期計画の策定・推進にあたり、特に意識するSDGsの目標は、「3 すべての人に健康と福祉を」を中心に、「2 飢餓をゼロに」「8 働きがいも経済成長も」「11 住み続けられるまちづくりを」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」とします。